写真する人々

写真は、私たちの周りの世界を、レンズや様々な手法を使って切り取ったものです。世界を魅了する素晴らしい写真は、私たちを感動させ、魅了し、新しい視点を与えてくれます。写真を撮ったり見たり感じたりするときの指標にもなります。ここでは、おもに現代の写真家に焦点を当て、彼らのアプローチ、哲学、芸術的なビジョン、技術的なアプローチ、制作過程について掘り下げ、みなさんが新しい写真を創造するためのインスピレーションになるようお伝えします。

ビジョンとアプローチ

現代の写真家たちは、それぞれ独自のビジョンを持っています。このビジョンは、その写真家が撮影したいもの、伝えたいこと、表現したい世界観に基づいています。また、写真家たちは、それぞれ異なる表現方法・アプローチを持っています。例えば、写真家によっては、明るくクリアなトーンを重視する人もいれば、暗く深い色調を好む人もいます。さらに、何を撮影するかについても、それぞれ異なります。風景、人物、動物、静物、抽象的なもの、あるいはその組み合わせなど、様々なものが撮影の対象となります。


写真家:ヴァンサン・フェラーネ

1974年クレテイユ生まれ。科学分野を学んだのち、2004年よりフォトグラファーとして活動を始める。現在はパリを拠点として活動し、フォトグラファープロダクション「Modds」に所属しながら、ポートレイトや広告、また『Les Inrockuptibles』、『élérama』、『ELLE』、『Grazia』、『Vanity Fair』などフランス内や国際的に展開されている雑誌での撮影を手がける。また、並行して個人の作品も制作しており、実在する出来事を繊細かつ象徴的な表現で写しだす。

技術と制作過程

写真家たちは、独自の技術と制作過程を持っています。一部の写真家は、デジタル技術を駆使して写真を撮影し、編集します。一方、別のグループの写真家は、フィルムカメラを使って写真を撮影し、暗室で手作業で現像します。また、いくつかの写真家は、昔ながらのカメラテクニックを使って写真を撮影し、手作業で現像します。写真家たちは、これらのテクニックや制作過程を使って、独自のスタイルと表現方法を追求しています。レンズを使わない特殊な技法、たとえば穴を開けたダンボールに感光させた昔ながらのカメラ技法などを使用します。

 

プリンス・ジャスィ/Prince Gyasi

ジャスィは、ガーナ出身のヴィジュアルアーティストである。彼は高校時代にスマートフォンで身の回りの写真を撮り始め、その後も継続的に携帯電話を使った創作活動を展開してきた。彼の作品は大胆で、希望にあふれたイメージを創造し、社会から取り残されがちな人々の物語を伝えている。多くの作品は、彼が育ったガーナの首都アクラで制作され、周囲の風景やコミュニティを彼自身の「ミューズ」としてモチーフにしている。色鮮やかなプリントは、父性、母性、子供時代など、ジャスィ自身の人生と結びつきのある感情を表現している。

作品と影響

ここでは、様々な分野で活躍する現代の写真家を取り上げます。それぞれの写真家について、彼らのアプローチ、哲学、芸術的なビジョン、技術的なアプローチ、制作過程について掘り下げ、彼らがどのように世界を見ているか、そして彼らの作品が私たちに与える影響について考えます。

京都GRAPHIE2023特集

京都、世界有数の文化都市で開かれる国際的な写真展示フェスティバルです。歴史的建築物、近現代の建物、ギャラリーだけでなく、ビルの一部や広場など、京都市内の様々なスポットが会場に変身します。

2023年のテーマは「BORDER」

すべての生き物は、いろいろな「境界線」をもって生活しています。その境界線が個々の存在をつくっているといえます。そして、そのほとんどは目に見えない境界線で、日々の中で守ったり、壊したりしながら常に変化しています。KYOTOGRAPHIE 2023では、その境界線をちょっとだけ見えるようにしてみたいと考えているようです。境界線は、自分で作ったものなのか、他の人によって作られたものなのか、守るべきものなのか、超えるべきものなのか。もしかしたら、自分の「思い」で変えられるものかもしれません。4.15-5.14の一か月間開催される特別な国際写真祭の一助になるよう、展示作家をピックアップ・紹介します。

KYOTO GRAPHIE 2023

International photography festival

京都国際写真祭

ロジャー・エーベルハルト

Roger Eberhard

ロジャー・エーベルハルトさんは、1984年生まれのスイス出身。チューリッヒとベルリンを拠点にしています。彼は、領土やグローバリゼーションなど、現代社会で重要な問題に関わるテーマで作品を制作しており、「Human Territoriality」シリーズで「Most Beautiful Swiss Books 2020」を受賞しました。

KYOTOGRAPHIE 2023では、スイスで2年ごとに開催される写真フェスティバルIMAGES VEVEYがプロデュースした「Escapism(エスカピズム)」という作品が展示されます。「エスカピズム」は、現実逃避や安らぎを求める姿勢を意味します。エーベルハルトさんは、コーヒーフレッシュの蓋を集めるというスイスの独特な習慣に注目しています。この趣味が一部の人々にとっては強い執着になっており、蓋に描かれた写真はさまざまなジャンルに及んでいます。彼は、エキゾチックな風景をクローズアップし、コーヒーブレイク中に蓋の写真に浸ることで、日常からちょっと離れるスイスの習慣に迫りました。そして、引き伸ばされたプリントのインクドット(網点)ひとつひとつが生み出すグリッドは、イメージの工業性を際立たせます。アンディ・ウォーホルやロイ・リキテンシュタインに通じる要素です。ドットのパターンはまた、鑑賞者を夢想的な逃避から現実の世界へと容赦なく引き戻す力も持っているようです。

マベル・ポブレット

Mabel Poblet

マベル・ポブレットは、キューバの現代アートシーンで活躍する若手アーティストで、写真、ミクストメディア、ビデオアート、キネティックアート、パフォーマンスアートなど多様な手法を駆使して創作活動を展開しています。彼女の作品は、フィデル・カストロ政権時代のキューバで育った彼女自身の経験に基づいて、若い世代のアイデンティティや世界とのつながりを探求しています。作品を通じて、キューバ社会と現代世界の関係性を描き出し、観る者に疑問を投げかけることで、アートの力で社会問題に光を当てる試みを行っています。

頭山ゆう紀

Yuhki Touyama

頭山ゆう紀は、2006年に第26回写真「ひとつぼ展」で入選し、石内都らから高評価を受けた著名な写真家です。彼女のキャリアの原点となるシリーズは、友人の死をきっかけに「記憶を残すもの」としての写真の本質に目覚めた結果、生まれました。頭山は日常の瞬間にシャッターを切り続け、その写真を通して生と死の境界線を超越し、生と死が同一視される世界を表現しています。

彼女の作品は、生と死が等しく闇の中で輝く独特の美学を持ち、多くの人々に感動を与えています。その独特な視点と感性で、頭山ゆう紀は写真界で独自の地位を築いているといえます。今後も彼の作品から目が離せないでしょう。

高木由利子

Yuriko Takagi

グラフィックデザインとファッションデザインを学んだ高木由利子は、モロッコで写真の魅力に目覚めました。「PARALLEL WORLD」展では、民族衣装を着た人々を撮影した「Threads of Beauty」と、DIORやポール・スミスなど著名ブランドのファッション作品が展示されます。イランのノマドとオートクチュールのDIOR作品は異なるように見えますが、高木は両者の共通の愛を感じました。

多様な素材にプリントされた作品が展示され、来場者はファッションと写真の奥深さに触れます。「ファッションも写真も、人に夢を与える」と高木は語ります。展示を通して、服や写真がどのように幸せをもたらすか、日常に潜む根源的な問いに向き合うでしょう。

セザール・デズフリ

César Dezfuli

毎年、何千人もの人々がアフリカ沿岸からヨーロッパへ向かい、命をかけて地中海を渡っています。2016年の夏、デズフリさんは、ドイツのNGO団体「ユーゲント・レッテト」が運営する難民救助船に3週間乗船し、リビアからイタリアへ向かう地中海のルートで難民の方々を救助する様子を記録しました。

ある日、リビア沖で漂流していたゴムボートから118名の難民の方々が救出されました。デズフリさんは、救出された方々の顔と名前を記録するために、ポートレート写真を撮りました。その後、彼らはイタリアのシチリア島で降ろされました。

デズフリさんは、難民の方々の現実を伝えるため、さらに彼らの物語を追い求めました。彼らが祖国を離れる理由や経験、そしてイタリアでの生活を調査しました。難民の方々の動機は様々で、政治的・経済的理由や感情的理由、家族問題、冒険心などが挙げられます。彼らの証言から、人権侵害の実態も明らかになりました。

また、ヨーロッパでの生活も容易ではありません。当局の対応が遅く、社会に適応できず、国から国へ移動することもあります。彼らがどの国を目指すかは、言語や知り合い、就職情報などによって決まります。イタリア、フランス、ドイツ、スペイン、オランダなどが滞在国となり、正式な処遇が決まるまで収容施設に滞在することもあります。

「Passengers」は、難民の方々の物語を記録し、彼らの苦境を理解し、後世に伝えるドキュメンタリーです。この作品を通して、難民問題への理解が深まることを願っています。

山田学

Yamada Manabu

愛媛県生まれの写真家・山田学さんは、1973年に生まれ、大学時代に写真に出会いました。その後、世界中を旅しながら撮影を続ける中で、一時期は絵画に転向。しかし、森山大道氏の写真集【写真よさようなら】に触発されて、絵画の知識を活かして写真活動を再開しました。多彩な才能を持つ山田さんは、舞台映像演出や朗読・音響パフォーマンスなど、幅広い分野で活動を展開しています。

2022年には、KYOTOGRAPHIEインターナショナルポートフォリオレビューで「Ruinart Japan Award」を受賞しました。これをきっかけに、世界最古のシャンパーニュメゾンであるルイナールのアート・レジデンシー・プログラムに参加するため、フランスのシャンパーニュ地方・ランスを訪れました。

そこで山田さんは、葡萄畑で収穫した葡萄や葉、畑にあった石、京都から持参した金箔などを撮影し、現地で制作活動を行いました。特に滞在中に山田さんが感銘を受けたのは、ルイナールのシャンパーニュ地下貯蔵庫「クレイエル」です。中世の白亜(石灰岩)の石切場を再利用したこの貯蔵庫は、38メートル上にある穴から地上の光が差し込む神秘的な空間となっています。

山田さんは、石灰岩がシャンパーニュの熟成に大きな役割を果たすことに、生命の循環を感じました。そして、ビックバンによる宇宙の始まりや星や生命の誕生など、生命と宇宙の起源に思いを馳せた作品「生命 宇宙の華」を制作しました。この作品は、瞬間的な美しさと、あらゆる生命の存在を讃えるかのような輝きを捉えています。

今回の展示では、山田さんの写真作品に加えて、シャンパーニュの泡立つ音やクレイエルで採取したサウンドを織り交ぜた映像インスタレーションも展示されます。山田学さんの作品は、生命のきらめきやこの世界の美しさを称える力強いメッセージを伝えています。展示を通じて、観る人々に生命の神秘や宇宙の広がりを感じさせる作品が並ぶでしょう。山田学さんの作品は、私たちの心に刻まれる生命の輝きと、すべての生きとし生けるものの存在を讃える力を持っています。この展示を通して、多くの人々が山田さんの独特の世界観に触れることができるでしょう。

山内 悠

Yu Yamauchi

山内悠さんは9年間にわたり屋久島を訪れ、1カ月を森で過ごし、自身の不安や恐怖心を探求しました。彼の旅は、森の中で他の生物が無邪気に生活する様子を目の当たりにし、人間としての恐れに気づくことから始まりました。彼は巨木を撮影することで、自分自身と自然との境界が曖昧になることを発見しました。自然は恐怖ではなく、自分自身の一部であり、自身が作り出した幻想に囚われていたことを悟りました。

彼は闇夜の森をヘッドライトで照らし出し、一夜明けてその恐怖が神々しい存在へと変わる瞬間を見つめました。そのとき、彼が長年抱き続けてきた恐怖心は消え、写真を通じて内在する世界の投影を確認しました。

山内さんの作品「自然|JINEN」は、彼が森と共に体験した心の状態を写真に映し出し、人間の存在と、その結果としての世界の闇と光を探求します。”自然”は、人間も含む全ての現象がありのままの状態を意味し、そのありのままの光景が私たちに示すものをこの作品は追求しています。

 

プロフィール

1977年兵庫県生まれ。自然の中で長い時間を過ごし、自然と人間の深い関係を探求しています。彼は独学で写真を学び、富士山の山小屋で600日間過ごし、「夜明け」という作品を制作しました。この作品では、雲の上の光景を撮影しながら、自然の中での体験から宇宙へと視野を広げています。

彼はまた、山小屋の主人を描いた「雲の上に住む人」という本を出版し、山での生活を通じて人間が持つ内と外の対話を記述しています。2020年には、5年間でモンゴルを旅しながら時間や空間、現実や世界の多様性を探求した「惑星」という作品を発表しました。

最近では、9年間にわたり屋久島を訪れ、森の中で1ヶ月近く過ごしながら、人間と自然との関係を探求した「自然 JINEN」を発表しました。彼は長野県を拠点に活動を続け、その写真作品は国内外で展示されています。

20世紀を彩った写真家

シンディ・シャーマン

シンディ・シャーマンは、自身を被写体とした作品で代表的なアーティストとして活躍。70年代後半に始まる「アンタイトルド・フィルム・スティル」で知られる。80年代には「惨事」シリーズ、90年代には「セックス・ピクチャーズ」や「ヒストリー・ポートレイト」シリーズで成功。自らメイクや衣装、舞台設定、撮影を手がけ、ジェンダーの虚構性や性の問題を提起する。97年にホラー映画『オフィスキラー』を監督。2000年代以降はカラー写真やデジタル加工を用いた新作を展開。2012年にMoMAで回顧展、日本では1996年に初展示。2016年に世界文化賞受賞。2017年からはInstagramでセルフィーを投稿。